1か月1200円で全国鉄道バス乗り放題なドイツの「9ユーロパス」を使ってみた

ドイツで公共交通機関が乗り放題になるパスが発売されて大きな話題となっています。筆者は5月末からハノーバーメッセの取材でドイツに訪れており、6月の頭の数日間、実際にこのパスを購入して使ってみました。

フランクフルトの切符自販機。9-Euro-Ticketを大きくアピール

このパスは「9-Euro-Ticket」という商品で、ドイツ全土の公共交通機関、すなわち市内鉄道やバスに1か月乗り放題となります。販売は6月分、7月分、8月分と1カ月単位。6月10日から7月9日まで、といった売り方はしていません。一方都市間を結ぶ高速鉄道のICEやICへの乗車は不可。日本でいうところの青春18きっぷに似たイメージですが、価格はわずか9ユーロ、約1200円で有効期間は1か月。1日当たり約40円という激安価格です。販売はドイツ鉄道(DB)や各都市の市内交通機関の窓口、自動販売機、さらにDBのアプリでも可能です。実は筆者は6月2日までこのパスが出たことをすっかり失念しており、6月3日にアプリで購入して使用を開始しました。

DBアプリから9-Euro-Ticketを購入

この9-Euro-Ticketは窓口や自販機で紙の切符を買った場合はペンで名前を記名する必要があるとのこと。実際にハノーバーメッセの展示会場からトラムに乗って中央駅に戻る際に、車内で切符に名前を書いている来場者を多数見かけました。おそらく帰りの切符を窓口で買うときにこのチケットの存在を知り購入したのでしょう。アプリの場合は車内検札の時にアプリの画面を見せれば大丈夫です。ドイツの鉄道は信用乗車のため改札が無く、自由にホームに入り乗車できます。しかし無賃乗車時の違反金は60ユーロ(約8400円)。「知らなかった」「時間がなかった」などは一切理由になりません。実際に滞在中、ハノーバーのUバーン車内で2回検札にあいました。

車内には罰金の案内が大きく掲示されている

さて筆者は5月28日(土曜日)にフランクフルトに到着、29日から6月3日までハノーバーに滞在し、6月4日(土曜日)に再びフランクフルトに戻ってきました。すなわち9-Euro-Ticketの発売前、後の週末のフランクフルトの街中を探索することができたのです。

まずSバーンやUバーンなど(近郊鉄道、地下鉄、トラム)は明らかに乗客が多くなったと感じました。もちろんイベントなどもあるでしょうから一概に9-Euro-Ticket効果なのかどうかはわからないかもしれません。しかし一方で、街中に出てみるとシェア電動キックボードを使っている人の数が減っているようにも感じました。5月28日は夕方にあちこちでキックボードに乗っている人を見たのですが、6月4日は一人も見ず。しっかりとした定点観測ではありませんが、やはり「1日40円」の公共交通チケットがあればだれもがそちらを使うのではないでしょうか。

ドイツも電動のシェアキックボードは多い。数社が営業、乗り降りは自由のようだ

今回このようなチケットが発行されたのはロシア・ウクライナ情勢を受けてガソリン代が値上がりし、国民の家計負担を減らすことが目的とされています。またそれだけではなく公共交通機関の利用を促し、脱炭素社会へ向けての意識を高める狙いもあるようです。ドイツ連邦政府はこのチケットによる各交通機関への補償に25億ユーロ(約3700億円)を交付するとのこと。

実際に筆者がこのチケットを買ってみて便利だと思ったのは、移動する際にちょっとした移動も路上を走るトラムに飛び乗るだけでよく「チケットを買う」「運賃を支払う」ということを一切考えることが無くなりました。もちろんこれまでにも1日乗車券などがありましたが、ドイツの場合はだいたい1000円弱であり「明日はホテル付近の繁華街に行くだけだから1日券を買うのをやめようか」などと悩むこともあるのです。しかし9-Euro-Ticketなら1200円ですから、たとえ2日間滞在するだけでも十分元が取れます。特にフランクフルトの場合は空港から市内まで片道5ユーロかかるので、トランジットで市内のホテルに泊まるときでも9-Euro-Ticketを買う方が安上がりです。

トラムが来たら乗る。運賃のことは考えなくていい

さて後から気が付いたのですが、市内の鉄道・バス移動がわずかな金額で定額でできるようになれば、浮いたお金で公共交通機関では行きにくい場所へタクシーを使うとか、あるいは駅や停留場からホテルがはなれているときはその部分だけキックボードを使う、といった使い分けもできます。すでに市内には縦横に公共交通機関があり、それだけでもほとんどのところへ移動できます。しかし公共交通機関では不便な場所にはタクシーなどを併用すれば、効率的な移動ができるわけです。すなわち移動する側の人間がそれぞれの交通機関の長所を自然と使い分けるようになり、移動にかける時間や費用を削減することでエネルギーの削減にも結び付くような気がします。

トラムの停留場までキックボード。交通機関の長所を生かした使い方ができる

今回の施策は夏休み期間に合わせて行われており、公共交通機関の利用者がコロナウィルスの影響で落ち込む中、需要喚起も兼ねて行われていると思われます。さすがに9月以降もこれだけの割引を行うことは無理でしょうが、3か月という長い期間の施策でドイツの国民の頭の中に「移動」に対しての考え方や意識が大きく変わることは間違いないでしょう。

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山根康宏/Yasuhiro YAMANE

香港在住の携帯電話研究家。スマートフォンを中心にIoT、スマートシティー、プロダクトデザインなどターゲット範囲は広い。年の大半を海外取材に費やしており、モビリティーの進化を日々体感している。

-山根康宏『World Mobility Report』
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